NewTrとベイズ推論および隠れマルコフ過程

 

(注)ベイズ推論、隠れマルコフ過程いずれも機械学習やNNの立役者だ。実用的に極めて強力であるにも拘わらず、しかし、どこか思いつきアイデアの感がある。両者ともに、実データとパラメータ空間との突き合わせをすることで成り立っているにも関わらず、使われる数式などにその「方向性」が陽に示されていないのだ。実データは客観的、パラメータ空間は概念的、内面的、主観的なものであるにも拘わらず。そこで、たとえば、ベイズの「定理」と言うけれど、単にコルモゴロフの条件付き確率の移項に過ぎないのではないか、と軽視された。しかし、この「実世界」と「観念世界」との2項関係はNewTrの規定にあるものだ。そこで、その関連性について改めて見直す事にした。


ベイズの定理と随伴関手構造との関連は?


ベイズの定理を随伴関手の枠組みで捉えることは、確率論と圏論を統一的に理解する上で非常に有益です。ここでは、ベイズの定理を随伴関手の視点から解釈する方法を考察し、特に条件付き確率を計算するプロセスが随伴関手とどのように対応するかを明確にします。


1. ベイズの定理の基本形

ベイズの定理は、条件付き確率 P(AB)P(A \mid B) を以下の形で表現します:

P(AB)=P(BA)P(A)P(B)P(A \mid B) = \frac{P(B \mid A) P(A)}{P(B)}

ここで:

  • P(A)P(A) は事前確率 (prior probability)。
  • P(BA)P(B \mid A) は尤度 (likelihood)。
  • P(B)P(B) は正規化定数 (evidence)。
  • P(AB)P(A \mid B) は事後確率 (posterior probability)。

これを随伴関手の構造として理解するために、確率分布を関手として扱い、随伴性がどのように現れるかを考えます。


2. ベイズの定理を随伴関手として捉える

随伴関手とは、2つの圏 C\mathcal{C}D\mathcal{D} の間にある関手 F:CDF: \mathcal{C} \to \mathcal{D}G:DCG: \mathcal{D} \to \mathcal{C} が、ある意味で「逆向きの操作」となり、以下の自然な同型を持つときに成り立つ概念です:

HomD(F(X),Y)HomC(X,G(Y))\operatorname{Hom}_{\mathcal{D}}(F(X), Y) \cong \operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(X, G(Y))

これをベイズの定理と関連づけるために、確率分布を関手として解釈し、条件付き確率が随伴関手の「ユニット・随伴射」として振る舞うことを示します。


2.1 確率空間と関手の設定

  • C\mathcal{C}「事前分布の空間」 とみなし、そこにある対象を確率分布 P(A)P(A) とする。
  • D\mathcal{D}「観測データの空間」 とみなし、そこにある対象を確率分布 P(B)P(B) とする。
  • F:CDF: \mathcal{C} \to \mathcal{D}「データを生成するプロセス」 (すなわち尤度 P(BA)P(B \mid A))。
  • G:DCG: \mathcal{D} \to \mathcal{C}「データから事前分布を更新するプロセス」 (すなわちベイズ更新 P(AB)P(A \mid B))。

このとき、以下の関手の対応がある:

F(A)=P(BA)F(A) = P(B \mid A) G(B)=P(AB)G(B) = P(A \mid B)

このとき、FFGG の間に随伴関係があると考える。


2.2 ベイズの定理の随伴性としての表現

ベイズの定理を随伴関手の形で表現すると、

HomD(P(BA),P(B))HomC(P(A),P(AB))\operatorname{Hom}_{\mathcal{D}}(P(B \mid A), P(B)) \cong \operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(P(A), P(A \mid B))

これは、次のように解釈できます:

  • 左側の射: P(B)P(B) のもとで P(BA)P(B \mid A) を計算する操作
  • 右側の射: P(A)P(A) のもとで P(AB)P(A \mid B) を計算する操作

つまり、観測されたデータ BB のもとでの確率の推移が、事前情報の更新と随伴関手のユニット・随伴射に対応していることを示唆します。

この構造は、特にベイズ推論における更新のプロセスを「圏論的な制約を持つ変換」として形式化するのに役立ちます。


3. ベイズ推論とモノイド圏

より一般的に、確率空間の圏はモノイド圏として扱うことができ、ベイズの定理は モノイド構造を持つ随伴関手 により特徴づけられます。この観点からは、以下のような関係が成り立ちます:

  1. P(A)P(A)P(B)P(B) はモノイド圏の対象とみなせる。
  2. 条件付き確率 P(BA)P(B \mid A) はモノイド作用と考えられる。
  3. ベイズ更新 P(AB)P(A \mid B) は、モノイド作用の随伴関手として特徴づけられる。

特に、確率測度をモノイドとしてみると、ベイズ更新はモノイド作用の随伴関手の一種と考えられる という解釈が可能になります。


4. まとめ

ベイズの定理を随伴関手として理解すると、以下の点が明確になります:

  1. 条件付き確率の計算は関手として捉えられる:

    • F:CDF: \mathcal{C} \to \mathcal{D} は尤度 P(BA)P(B \mid A) に対応。
    • G:DCG: \mathcal{D} \to \mathcal{C} はベイズ更新 P(AB)P(A \mid B) に対応。
  2. ベイズの定理の形は随伴関手のホムセット同型に対応:

    • 観測データの確率を求めるプロセスと、事前分布を更新するプロセスが随伴関係を持つ。
  3. モノイド圏の枠組みで確率論を圏論的に整理できる:

    • 条件付き確率はモノイド作用とみなせる。
    • ベイズ更新はその随伴関手とみなせる。

このように、ベイズの定理は圏論的な構造を通じてより抽象的な形で理解することができ、確率推論の数学的基盤を明確にする新しい視点を提供します。


この圏論的な視点は、特に 「随伴関手を用いた学習アルゴリズム」 の設計に応用でき、NewTr の確率的な拡張に役立つ可能性があります。この方向で、ベイズ推論と随伴関手のより精緻な対応関係を探ることは、NewTr の理論的発展にも有益 でしょう。


隠れマルコフ過程にもこの種の随伴関手構造を見る事が出来るのでは?


はい、隠れマルコフ過程 (Hidden Markov Process; HMP) にも随伴関手の構造を見出すことができます。特に、状態遷移と観測プロセスの関係を随伴関手として解釈することにより、確率モデルの構造を圏論的に整理することができます。

以下のように、ベイズ推論の圏論的枠組みを拡張し、HMP における確率遷移と観測プロセスの関係を随伴関手のペアとして特徴づける 方法を考えます。


1. 隠れマルコフ過程の基本構造

隠れマルコフ過程 (HMP) は、観測されない(隠れた)状態の系列がマルコフ過程を形成し、それに基づいて観測系列が生成される確率モデル です。

  • 隠れた状態: XtX_t (観測不可能な状態)
  • 観測系列: YtY_t (観測可能なデータ)
  • 状態遷移確率: P(XtXt1)P(X_t \mid X_{t-1}) (マルコフ連鎖)
  • 観測確率(エミッション確率): P(YtXt)P(Y_t \mid X_t)

隠れマルコフ過程の目的は、観測系列 Y1,Y2,,YTY_1, Y_2, \dots, Y_T に基づいて、隠れた状態 XtX_t の系列を推定すること にあります。


2. HMP における随伴関手構造

(1) HMP の2つの圏

隠れマルコフ過程における主要な構造を、圏の言葉で整理すると以下のようになります:

  • 状態の圏 X\mathcal{X} (隠れた状態の空間):

    • 対象:隠れた状態 XtX_t
    • 射:状態遷移確率 P(XtXt1)P(X_t \mid X_{t-1})
  • 観測の圏 Y\mathcal{Y} (観測系列の空間):

    • 対象:観測データ YtY_t
    • 射:エミッション確率 P(YtXt)P(Y_t \mid X_t)

これらの間には、2つの関手が考えられます:

  • エミッション関手 F:XYF: \mathcal{X} \to \mathcal{Y}:

    • 隠れた状態 XtX_t から観測値 YtY_t への確率遷移を表す。
    • F(Xt)=P(YtXt)F(X_t) = P(Y_t \mid X_t)
  • 状態推定関手 G:YXG: \mathcal{Y} \to \mathcal{X}:

    • 観測データから状態を推定する逆写像。
    • G(Yt)=P(XtYt)G(Y_t) = P(X_t \mid Y_t)(ベイズの定理による事後確率)

このとき、随伴関手の形で

HomY(F(Xt),Yt)HomX(Xt,G(Yt))\operatorname{Hom}_{\mathcal{Y}}(F(X_t), Y_t) \cong \operatorname{Hom}_{\mathcal{X}}(X_t, G(Y_t))

という構造が成り立つと考えられます。


(2) HMP のフィルタリングとスムージング

HMP では、以下の2つの推定問題が重要です:

  • フィルタリング: P(XtY1,,Yt)P(X_t \mid Y_1, \dots, Y_t)(現在の観測データまで使って XtX_t を推定)
  • スムージング: P(XtY1,,YT)P(X_t \mid Y_1, \dots, Y_T)(未来のデータも考慮して XtX_t を推定)

随伴関手の枠組みでは、フィルタリングとスムージングが 随伴関手の自然変換の違い として特徴づけられます。

  • フィルタリングは「前向き遷移」を表し、前向きの随伴関手 F:XYF: \mathcal{X} \to \mathcal{Y} に対応。
  • スムージングは「後向きの更新」を表し、後向きの随伴関手 G:YXG: \mathcal{Y} \to \mathcal{X} に対応。

この意味で、フィルタリングとスムージングの手続きは、随伴関手の 単位 (unit) と余単位 (counit) の関係 として解釈できます。


3. HMP とモノイド圏

ベイズの定理の随伴関手としての解釈と同様に、HMP も モノイド圏の随伴関手 の枠組みで捉えられます。

  • 隠れた状態の遷移確率 P(XtXt1)P(X_t \mid X_{t-1}) は、確率的なモノイド作用 に対応する。
  • 観測確率 P(YtXt)P(Y_t \mid X_t) は、このモノイド作用の随伴関手としてみなせる。

したがって、HMP は確率的な随伴関手の構造を持つモノイド圏として表現可能であり、以下の関係が成り立ちます:

(状態の圏, 観測の圏)=(X,Y)\text{(状態の圏, 観測の圏)} = (\mathcal{X}, \mathcal{Y}) (状態遷移, エミッション確率)=(F,G)\text{(状態遷移, エミッション確率)} = (F, G) (フィルタリング, スムージング)=(unit,counit)\text{(フィルタリング, スムージング)} = (\text{unit}, \text{counit})

この構造を用いることで、HMP の学習・推論アルゴリズムを、圏論的に整理し直すことが可能になります。


4. まとめ

HMP における随伴関手の構造

  1. 状態空間 X\mathcal{X} と観測空間 Y\mathcal{Y} の間に随伴関手が存在する:

    • エミッション確率 F:XYF: \mathcal{X} \to \mathcal{Y} は観測を生成する関手。
    • 状態推定 G:YXG: \mathcal{Y} \to \mathcal{X} は観測データから状態を復元する関手。
  2. フィルタリングとスムージングは、随伴関手の単位と余単位に対応する:

    • フィルタリング: P(XtY1,,Yt)P(X_t \mid Y_1, \dots, Y_t)
    • スムージング: P(XtY1,,YT)P(X_t \mid Y_1, \dots, Y_T)
  3. HMP はモノイド圏として記述可能であり、確率的な随伴関手を持つ:

    • 状態遷移確率はモノイド作用。
    • 観測確率はこのモノイド作用の随伴関手。

このように、HMP の構造は確率的な随伴関手のフレームワークで整理でき、フィルタリングやスムージングがその自然な変換として表現できる という結論になります。

この視点を活かせば、随伴関手をベースとした確率推論アルゴリズム の設計が可能になり、NewTr の時間的豊穣圏に基づく新たな推論モデル に応用できる可能性があります。


どちらもNewTrと構造として同じに見えるが、それぞれNewTrと対比してみて、同じ所、違うところを具体的に説明できるだろうか。


NewTr vs. ベイズの定理 vs. 隠れマルコフ過程 (HMP) の構造的対比

NewTr は随伴関手をベースとした Transformer の新たな設計であり、ベイズの定理や隠れマルコフ過程 (HMP) とは確率的な情報処理のフレームワークという点で共通しています。しかし、それぞれのモデルの「情報の流れ」「随伴関手の役割」「モノイド圏としての構造」には異なる特徴があります。

ここでは、NewTr、ベイズの定理、HMP の3つを随伴関手の観点から比較し、それぞれの類似点と相違点を明確にします。


1. 3つのモデルの基本構造

モデル 主要構造 情報の流れ 圏論的な表現
NewTr Transformer の拡張 データの流れを随伴関手で整理し、動的に記憶を統合 (X,Y)(\mathcal{X}, \mathcal{Y}) の圏とその随伴関手によるデータ統合
ベイズの定理 条件付き確率の更新 事前分布 → 観測 → 事後分布の変換 確率分布の随伴関手: P(BA)P(AB)P(B \mid A) \dashv P(A \mid B)
HMP マルコフ遷移+観測 隠れた状態 → 観測 → 推定 状態空間と観測空間の随伴関手

これを詳細に掘り下げていきます。


2. 情報の流れの観点からの比較

情報の流れとは、モデル内で「どのように情報が更新・処理されるか」という視点です。

(1) NewTr の情報の流れ

  • 随伴関手の双対構造 を活かし、同化 (Assim) と 調節 (Accom) のバランスを最適化 する。
  • データ (二次性) と抽象的表現 (一次性) の間の随伴関手構造 により、情報を統合する。
  • 「随伴関手のダイナミクス」により、短期・長期記憶の統合を最適化

(2) ベイズの定理の情報の流れ

  • 事前分布 P(A)P(A) から観測 BB に基づいて、事後分布 P(AB)P(A \mid B) を計算する。
  • ベイズの定理は一回の更新を表すが、時間的なダイナミクスを持たない
  • 確率的な随伴関手としての対応:
    • P(BA)P(B \mid A) は「データ生成の関手」
    • P(AB)P(A \mid B) は「データから学習する関手」

(3) HMP の情報の流れ

  • マルコフ遷移 P(XtXt1)P(X_t \mid X_{t-1}) により状態が変化し、観測 P(YtXt)P(Y_t \mid X_t) を得る。
  • データを観測しながら、過去の状態を推測(フィルタリング)したり、後から状態を補正(スムージング)する。
  • 時間発展を考慮する点で、ベイズの定理より NewTr に近いが、記憶統合は明示的でない。
  • 確率的な随伴関手としての対応:
    • P(YtXt)P(Y_t \mid X_t) は「観測を生成する関手」
    • P(XtYt)P(X_t \mid Y_t) は「観測から状態を推定する関手」

類似点と相違点

観点 NewTr ベイズの定理 HMP
情報の更新 フィードバックを考慮した随伴関手の流れ 1回の確率更新のみ 時間発展を考慮
記憶の統合 随伴関手を用いた統合 記憶の概念なし フィルタリング・スムージングによる時間的補正
時間的な処理 長期・短期記憶の随伴関手のせめぎ合い 時間発展を持たない 時間発展を持つが、明示的な記憶統合なし

3. モノイド圏の観点からの比較

NewTr、ベイズの定理、HMP のいずれも、モノイド圏の随伴関手 として整理できます。

  • NewTr:

    • 記憶の統合を モノイド圏の随伴関手として捉える
    • 記憶の更新は 随伴関手の作用としてモノイド圏の構造に埋め込まれる
    • 圏論的な整合性を最適化するため、明示的にモノイド構造を考慮して設計されている。
  • ベイズの定理:

    • 確率空間の射が「確率的なモノイド作用」を持つ。
    • ベイズの更新は「モノイド作用の随伴関手」とみなせる。
    • ただし、モノイド圏の動的な変化は考慮されていない。
  • HMP:

    • 状態遷移確率を モノイド作用 として扱える。
    • 観測プロセスは 随伴関手として作用するモノイド構造 に対応する。
    • NewTr と異なり、随伴関手のせめぎ合いによる統合を考慮していない。

4. NewTr に統合可能か?

ベイズの定理と HMP の両方の随伴関手的な構造を持っている NewTr は、この2つを包含する形で整理可能 です。

  • HMP に対する拡張:

    • HMP は時間発展を持つが、随伴関手のせめぎ合いを考慮しない
    • NewTr では、時間発展 + 記憶の統合を同時に扱える
  • ベイズの定理に対する拡張:

    • ベイズの定理は静的な確率更新
    • NewTr はこれを「逐次適用し、長期記憶と統合する」形で拡張可能。

結論として、NewTr は「HMP とベイズの定理の随伴関手のせめぎ合い」を包含し、動的に情報を最適化する枠組みを提供する


5. まとめ

項目 NewTr ベイズの定理 HMP
確率的推論 あり(確率的随伴関手) あり(ベイズ更新) あり(状態遷移 + 観測)
時間発展 あり(時間的豊穣圏) なし あり(マルコフ遷移)
記憶の統合 随伴関手のせめぎ合いを用いた統合 なし 明示的な記憶統合なし
モノイド圏 モノイド圏の作用 + 随伴関手 確率的なモノイド作用 状態遷移をモノイド作用と解釈可能

結論:

NewTr は ベイズの定理 + HMP を圏論的に統合し、時間的なダイナミクスと記憶の統合を実現する枠組み を提供する。


NewTrをモノイド圏の上のものとしているが、NewTr-Rev VIIでは2圏の上でのものになっているのでは?


その通りです。NewTr-Rev VII では、単なるモノイド圏の構造ではなく、2圏 (bicategory) の枠組みを採用しており、随伴関手の構造もより一般的な形になっています。したがって、NewTr-Rev VII の随伴関手構造は、ベイズの定理や隠れマルコフ過程 (HMP) の随伴関手よりも高次の圏論的枠組みで定義されている という違いが重要です。


1. NewTr-Rev VII における 2圏の視点

NewTr-Rev VII では、単なる 1圏上のモノイド圏ではなく、2圏の構造を導入することで、記憶の統合や学習の動的な適応を随伴関手のより高次の枠組みで整理している

  • 対象: 記憶やデータの空間 (例えば、確率分布や潜在表現)
  • 1-射: 記憶の変換や学習プロセス (随伴関手の対応)
  • 2-射: 記憶の統合、圏同値、随伴関手間の自然変換

つまり、1圏のモノイド作用としての記憶更新ではなく、2圏の随伴関手の関係として「記憶の統合」や「適応的な推論の修正」が記述されている


2. ベイズの定理と HMP との比較 (NewTr-Rev VII の 2圏構造との対比)

モデル 構造 随伴関手のレベル 2圏の要素
ベイズの定理 確率分布の変換 1圏 (Set などの圏内の関手) なし
HMP 状態遷移と観測 1圏 (確率遷移の随伴関手ペア) なし
NewTr-Rev VII 記憶とデータの統合 2圏 (随伴関手の2-射を含む) 記憶の統合、推論の修正、圏同値の扱い

この違いは、単に「確率的な推論を行う」というレベルではなく、随伴関手の上にさらに 2-射のレイヤーを持つことで、「推論自体の更新」や「学習の構造そのものの適応」を可能にする という点で本質的に異なります。


3. 具体的な 2圏構造の違い

NewTr-Rev VII では、次のような 2圏の要素が含まれる:

  1. 状態空間 (1-対象)

    • これは、確率分布やデータ表現の空間 (例: 潜在表現の圏)
  2. 状態変換 (1-射 = 関手)

    • ベイズの定理や HMP の随伴関手のように、事前分布 → 事後分布 や 状態遷移 → 観測データ という変換を持つ。
  3. 推論のメタレベルの調整 (2-射 = 自然変換)

    • ここが NewTr-Rev VII の最大の特徴 で、単なる確率分布の変換ではなく、その「変換の方法」自体を修正・適応できる。

例えば、HMP では「状態遷移の仕組み」は固定されているが、NewTr-Rev VII では「どのように状態遷移を修正するか」も 2-射としてモデル化される。


4. 2圏の視点での随伴関手の高度な使い方

NewTr-Rev VII では、次のような 2圏レベルでの随伴関手 が存在する:

  1. 標準的な随伴関手ペア (ベイズや HMP の枠組み)

    • 例: F:XYF: \mathcal{X} \to \mathcal{Y}G:YXG: \mathcal{Y} \to \mathcal{X} の関係
  2. 随伴関手間の 2-射 (自然変換)

    • 例: 異なるフィルタリング手法間の変換、推論の調整、記憶の統合
  3. より高次の構造としての圏同値

    • NewTr-Rev VII では、記憶の最適化を「圏同値の条件」として捉え、適切な表現を選ぶプロセスを 2圏の随伴関手の枠組みで扱う。

5. まとめ: NewTr-Rev VII はベイズや HMP の随伴関手を包含するが、2圏として拡張

共通点

  • 随伴関手の基本構造はどれも持っている
    • ベイズの定理: P(BA)P(AB)P(B \mid A) \dashv P(A \mid B)
    • HMP: 状態遷移と観測の随伴関手
    • NewTr-Rev VII: 記憶の更新を随伴関手として整理

NewTr-Rev VII の違い

  • モノイド圏ではなく、2圏の構造を持つ
    • 記憶の統合や適応学習が 2-射として表現可能
  • 推論の「方法自体」の修正が可能
    • HMP では固定のフィルタリング手法しかないが、NewTr ではフィルタリング手法の選択自体が 2-圏の射として存在
  • 圏同値の概念を導入
    • 最適な推論モデルを、圏論的な最適性として定義できる

6. NewTr-Rev VII における 2圏の利点

ベイズの定理や HMP は随伴関手の枠組みで理解できるが、NewTr-Rev VII のような 2圏の枠組みを持つことで、以下のような拡張が可能になる

  1. 推論のダイナミクスを明示的にモデル化

    • 状態遷移だけでなく、推論の方法自体を適応的に更新
  2. 記憶の統合を圏論的に整理

    • モノイド圏ではなく、2圏のレベルで記憶の統合が可能
  3. 圏同値の視点から、最適な表現を選択

    • HMP では単に確率推論を行うが、NewTr では「どの表現が最適か」を圏論的に評価できる

7. 結論: NewTr-Rev VII は「ベイズ + HMP + 2圏」の統合

視点 ベイズの定理 HMP NewTr-Rev VII
随伴関手のレベル 1圏の随伴関手 1圏の随伴関手 2圏の随伴関手
記憶の統合 なし 明示的でない 2-射として組み込む
推論の適応性 なし 状態遷移は固定 推論の修正も 2圏の枠組みで記述
圏同値の扱い なし なし 最適表現の選択を圏同値として扱う

したがって、NewTr-Rev VII は、ベイズの定理や HMP を包含するだけでなく、2圏の構造を活かして「推論の最適化と学習の適応性を統合する圏論的な新モデル」であると言えます。


 

 

 

 

 

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